昭和大学江東豊洲病院外科系診療センター泌尿器科

主な泌尿器疾患について

前立腺肥大症・過活動膀胱などの下部尿路症状

下部尿路症状とは?

下部尿路症状を有する中高齢者の頻度は極めて高く、加齢とともに増加します。下部尿路症状とは、尿をためる、出す、に関係する症状を広く意味する用語で、主に『蓄尿症状』、『排尿症状』、『排尿後症状』の3つに分けられます。

下部尿路症状

蓄尿症状とは、頻尿(尿の回数が多い)、夜間頻尿や、急に抑えきれないような強い尿意を感じる尿意切迫感、不随意に尿が漏れる尿失禁などを含みます。排尿症状とは、尿勢の低下(尿の勢いが弱い)、尿線の途絶(排尿が1回以上途切れる)、排尿遅延(排尿準備ができてから開始までに時間のかかる)などを含みます。排尿後症状とは残尿感(排尿後に完全に膀胱が空になっていない感じがする)、排尿後尿滴下(排尿直後に不随意的に尿が出てきてしまう)を含みます。
これらの症状は男性でも女性でも起こり、さまざまな病態、病気がからんでいることがあります。泌尿器科ではこのような生活の質(Quality Of Life; QOL)を低下させるような症状を改善するために様々な治療を行っております。

下部尿路症状を起こす疾患と治療

下部尿路症状をおこす疾患で代表的なものに前立腺肥大症、過活動膀胱、脳血管障害や末梢神経障害などの神経の病気、尿道狭窄症などがあります。これらの病態と診断、治療をご説明します。


前立腺肥大症

前立腺は男性にしかありません。精液の一部をつくっている臓器です。膀胱のすぐ下にあり、ちょうどクルミほどの大きさで、排尿時に内部を尿が流れます。この前立腺が年齢とともに肥大することにより、尿道が圧迫されて排尿障害をもたらします。

前立腺肥大症は年齢と深い関係にあり、40・50代で症状が出始め、60歳を過ぎると、半数以上の人が夜間頻尿と尿勢低下を訴え、65歳前後で治療を開始する人が多くなります。そして、80歳までには80%の人が前立腺肥大症になるとみられています。程度の差こそあれ、高齢の男性にほぼ全員発症するため、男性の更年期症状や、老化現象の一種という見方もできます。 がんとは違って良性の病気ですので生命に直接かかわるようなものではありませんが、放置しておくと尿閉(尿が全く出せなくなる)こともあり、腎不全の原因となることもありますので、50歳を過ぎて尿の出が悪いと感じたら、一度泌尿器科を受診することをお勧めします。

前立腺肥大症

前立腺肥大症の診断には、一般的に次のような検査が必要です。

問診 自覚症状としての排尿障害の程度や、他の疾患との鑑別をするため、既往歴などを詳しく聞きます。
尿流量測定 他覚所見として、排尿障害の程度を数値化して表します。
直腸診 前立腺の大きさ、硬さ、表面の状態(なめらかさ・凹凸)がわかります。
超音波診断 前立腺の形状、大きさを測定し、残尿のおおよその量も推定できます。
血液検査(腫瘍マーカーの測定) 腫瘍マーカー(PSA)検査は前立腺がんとの鑑別のために行ないます。

また、前立腺に関係する症状(尿の勢い、排尿回数、尿が残った感じなど)を点数にして前立腺肥大症の重症度を調べる「I-PSS(国際前立腺症状スコア)」という質問表が診断の際に使われており、一般に7点以下が軽症、20点以上が重症とされています。

全く
なし
5回に1回の
割合未満
2回に1回の
割合未満
2回に1回の
割合
2回に1回の
割合以上
ほとんど
いつも
最近1ヶ月間、排尿後に
尿が残っている感じがありますか。
0点 1点 2点 3点 4点 5点
最近1ヶ月間、排尿後2時間以内に
もう一度行かねばならないことがありましたか。
0点 1点 2点 3点 4点 5点
最近1ヶ月間、排尿途中に
尿が途切れることがありますか。
0点 1点 2点 3点 4点 5点
最近1ヶ月間、排尿を
がまんするのがつらいことがありましたか。
0点 1点 2点 3点 4点 5点
最近1ヶ月間、
尿の勢いが弱いことがありましたが。
0点 1点 2点 3点 4点 5点
最近1ヶ月間、
排尿開始時にいきむ必要がありましたか。
0点 1点 2点 3点 4点 5点
最近1ヶ月間、床に就いてから
朝起きるまでに普通何回排尿に起きましたか。
(0回)
0点
(1回)
1点
(2回)
2点
(3回)
3点
(4回)
4点
(5回以上)
5点

「EBMに基づく前立腺肥大症診療ガイドライン」より


前立腺肥大症に対する治療法は大きく分けて①薬物療法と②手術療法に分けられます。
現在行なわれている薬物療法は、

これらの3項目が基本となり、第一選択薬としてα1-ブロッカーを使用し、機能的閉塞を解除することから行われます。
なお、α1-ブロッカーは、高血圧の治療にも使われることがありますので、高血圧の治療を行っている場合(特に他の医療機関で治療中の場合)は、前立腺肥大症の問診の際に医師に必ずお伝えください。
手術の適応とする一定の基準はありませんが、尿閉が前立腺肥大症に起因するかたと、総合評価で中等症から重症の前立腺肥大症のかたが対象になります。

主な手術法

経尿道的前立腺切除術(TURP)

先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から少しずつ削り取ります。当院では従来から行われているモノポーラ電極を使用するやり方以外に、還流液に生理食塩水を用い、より合併症の少ないバイポーラ電極使用のTURPも行うことが可能であります。

経尿道的前立腺核出術(HoLEP)

TUR-Pと同様に内視鏡を尿道から挿入しますが、電気メスは使用せずレーザーにて腫大した前立腺をまるごと核出します。核出した前立腺は膀胱内に一度落ち、それをモーセレーターという装置で吸引し前立腺を体外に出します。TURP同様に当院で施行可能な手術です。

尿道ステント、尿道カテーテル留置、膀胱瘻

前立腺内部にステントという筒を留置することにより、前立腺による尿道の圧迫を解除する方法です。ステント留置に伴う刺激症状の出現の可能性、ステント留置後のステントの位置の移動に伴う尿閉のリスク、場合により定期的な交換の必要性などがあり、当院では合併症などで他の手術的治療が難しい場合にのみ行っています。
尿道カテーテル留置、膀胱瘻は、カテーテルという管を膀胱内に留置する方法です。2~4週間に一度の交換が必要になります。カテーテル留置に伴う尿路感染症の発生の問題などがあり、手術を行うのが難しいかたに選択する方法です。


過活動膀胱

過活動膀胱とは下に示す「尿意切迫感」があり、しばしば「頻尿」を伴い、ときに「切迫性尿失禁」をきたす病気です。

  • 急に、尿意をもよおし、もれそうでがまんできない(尿意切迫感)
  • トイレが近い(頻尿)、夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
    人がトイレへ行く回数は、日中で5~7回、寝ている間は0回が正常と言われています。 日中8回以上トイレに行き、夜間も1回以上おしっこのために起きるようなら、それは頻尿(夜間頻尿)と言えます。
  • 急に尿をしたくなり、トイレまでがまんできずもれてしまうことがある(切迫性尿失禁)尿意切迫感だけでなく、場合によってはトイレまで我慢できずに尿が漏れてしまうこともあります。
経尿道的前立腺切除術(TURP)

40歳以上の男女の8人に1人が、過活動膀胱の症状をもっているといわれております。実際の患者さんの数は、800万人以上ということになります。この中で、切迫性尿失禁がある人は、約半分存在します。男性の場合、前立腺肥大症があって過活動膀胱の症状がある人と、前立腺肥大症はなく過活動膀胱の症状だけがある人がいます。


原因

過活動膀胱には、脳と膀胱(尿道)を結ぶ神経のトラブルで起こる「神経因性」のものと、それ以外の原因で起こる「非神経因性」のものがあります。

それ以外の原因
上記以外の何らかの原因で膀胱の神経が過敏にはたらいてしまう場合や、原因が特定できない場合もあります。いくつかの原因が複雑にからみあっていると考えられています。この原因の特定できないものや加齢によるものが、実際には最も多く存在しています。

診断

前立腺肥大症と同様に、医師が問診や検査によって診断します。
過活動膀胱の初期診断は、患者の症状に基づいて行われ、過活動膀胱症状質問票(OABSS)を使用します。「OABSSの質問3の尿意切迫感スコアが2点以上、かつ、OABSSが3点以上」だと過活動膀胱と診断されます。また、OABSSをOABの重症度判定基準として用いる場合は、合計スコアが5点以下を軽症、6~11点を中等症、12点以上を重症とされています。

過活動膀胱症状質問票(OABSS)

以下の症状がどれくらいの頻度でありましたか。この1週間のあなたの状態にもっとも近いものを、ひとつだけ選んで、点数の数字を○で囲んで下さい。

質問 症状 点数 頻度
1 朝起きた時から寝る時までに、何回くらい尿をしましたか 0 7回以下
1 8~14回
2 15回以上
2 夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか 0 0回
1 1回
2 2回
3 3回以上
3 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上
4 急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上
合計点数

(過活動膀胱診療ガイドラインより)

治療

前立腺肥大症のある方は、まずは前立腺肥大症の治療を行い、効果が十分でないときに、過活動膀胱を考えた治療を加えたり、切り替えたりします。治療には薬による治療、その他、行動療法といわれる治療法があります。薬物治療では主に抗ムスカリン作用といって膀胱の筋肉を弛緩させるような薬を使用します。


脳疾患、脊髄疾患、末梢神経障害

上述のように脳血管障害(脳梗塞や脳出血)や認知症、パーキンソン病なども脳の病気、脊髄損傷や脊椎の変形性疾患(脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア)などの脊髄疾患などの中枢系の神経疾患では前立腺、膀胱などに異常がなくても下部尿路の機能障害を起こします。
他に、骨盤内の手術(直腸がん、子宮がんなど)を行ったあとに末梢神経障害を起こし、下部尿路症状を訴える患者さまもいます。糖尿病などの内科的疾患でも末梢神経障害はおこります。


前立腺炎、膀胱炎

前立腺炎や膀胱炎などの尿路感染症でも排尿、畜尿障害を起こすことがあります。他の原因がない場合は感染症を治療することによって症状は軽快します。


尿道狭窄症

尿道狭窄は外傷や炎症の治癒過程で起こる瘢痕化によって起こることがあります。また泌尿器科手術(経尿道的な内視鏡手術や前立腺がんに対する前立腺全摘除術)後にまれに起こります。薬では軽快しないため内視鏡手術や尿道を拡張させる処置などで治療をします。


膀胱がん、前立腺がん

膀胱がん、前立腺がんともに初期の場合、下部尿路症状を起こすことは少ないですが、進行すると症状が出ます。


その他

その他の下部尿路障害の原因として以下のものがあります。